訊連科技股份有限公司(CyberLink、以下「サイバーリンク社」)はトップレベルのオーディオ・ビデオ技術を持つ台湾のマルチメディアソフト企業で、1995年に設立された。デジタル動画音声再生ソフトとマルチメディア・ストリーミングのアプリケーションソリューション製品の研究開発に精通した非常に有名な台湾のソフトウェアメーカーで、企業ロゴ「CyberLink」はソフトウェア関連業界では高い知名度を誇る。
サイバーリンク社は集佳に委託して2011年4月28日に第9400004号「Cyberlink AudioDirector」商標の登録を出願し(以下、「出願商標」という)、指定した商品は第9類の「フロッピーディスク、コンピューターソフトウェア(記録済み)、コンピューターソフトウェア(記録済み)、光ディスク、データ処理装置、コンピューター、コンピューター周辺機器、ワードプロセッサー、ノートパソコン」などの商品だった。審査、審判の段階では、商標局、商標評審委員会は相次いで「出願商標は全体で『ネットワーク・コネクション音声ガイダンス・コントローラー』と訳すべきもので、指定のデータ処理装置、コンピューター周辺機器などの商品に使用するには、商標にあるべき顕著性が乏しく、『商標法』第11条第1項第3号が規定する事由に該当し、商標登録は認められない」として、登録拒絶査定を下した。すぐさま提起された北京市第一中級人民法院における行政訴訟第一審では、商標評議審査委員会の不服審判決定を維持する判決を下した。
集佳は出願人と意思疎通を図るとともに、本件の経緯を分析し、北京市高級人民法院に上訴し、次のように主張した。「出願商標はサイバーリンク社のオリジナルで、翻訳には固定の観念がなく、中国の関連公衆に対して強い顕著性がある。そのうち、『Cyberlink』は出願者が長期にわたり使用している英語の商号であり、『AudioDirector』は出願者の核心的なサウンド編集ソフトウェアシリーズで、出願者の広範かつ長期的な使用により、出願商標の顕著性は一段と強まり、単独の『Cyberlink』および『AudioDirector』はいずれも上訴人と直接の対応関係をなし、商標全体を指定商品に使用することによりさらに顕著な特徴を有し、完全に他の商標と区別する作用を果たすことができる」
同時に、サイバーリンク社は以前にも第9類の類似商品に「Cyberlink WaveEditor」、「Cyberlink PowerDirector」など本件の出願商標の文字構成、組合せ方式が似た商標の登録を認められている。審査基準の整合性に基づき、出願商標も顕著性の欠如を理由に登録を却下すべきではない。
北京市高級人民法院は審理を経て、以下のように判断した。「商標の顕著性は固有の顕著性と使用により取得した顕著性に分けられ、このうち固有の顕著性の判断は関連公衆の立場に立って行わなければならない。関連公衆が市場で関連の商業的な標識を見たときにそれを商品の出所を識別する商標と見なしさえすれば、当該標識には商標の顕著性があると見なさなければならない。本件の出願商標は単純な英語の商標でいくつかの意義を持たせることが可能で、固定の、一義的な意義ではなく、指定商品には一定の固有顕著性がある。また『Cyberlink』は出願人企業の英語商号で、長期にわたる使用を経て出願人とは緊密な関係が生じ、対応関係を形成し、比較的高い知名度がある。こうした状況下では、関連公衆が出願商標を目にしたとき、それをサイバーリンク社と結び付ける、すなわち商品の出所を識別する働きを果たすことができる。サイバーリンク社の提出証拠に基づき、すでに多くの『Cyberlink』から始まる類似の文字商標を登録済みで、審査基準の整合性という原則に鑑みても、出願商標の登録を許可すべきである」――。以上のことから、北京市高級人民法院はサイバーリンク社の上訴請求を支持し、一審判決と商標評審委員会の決定を取り消すとともに同委員会に再決定を命じる判決を下した。
【弁護士の見解】本件は、行政機関と司法機関が商標権の付与・確定審査実務において適用する基準および尺度に大きな差異があるという現実を反映している。行政機関は大量の商標出願、不服審判案件を抱え、事件処理の効率と結果の整合性を確保するために、相対的に簡単な判定要素と相対的に保守的な尺度を採用し、審査官の事件に対する理解には個人差が伴うことから、当事者にとって不公平な結果をもたらす可能性が高い。一方、司法機関の判断は個別事件の状況について周到かつ慎重に分析し総合的に判断するという特徴がより強く表れている。このため、出願人は事件に理由と特殊な考慮すべき要因が確実にある状況では、審査、審判段階の不利な結果について行政訴訟を提起すれば、効果的な法的救済を得ることができる。
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