西門子(シーメンス)株式会社(以下、「シーメンス社」)が中国で登録した第G683480号商標「西門子」、第G637074号商標「SIEMENS」はいずれも、以前「馳名商標(日本の著名商標に相当――訳注)」に認定された。
新昌県西門子生活電器有限公司(以下、「新昌県西門子公司」)は2014年4月14日に設立され、行政機関は紹興市邦代電器有限公司(以下、「邦代公司」)の工場建屋において、「新昌県西門子生活電子有限公司、住所:浙江省新昌県城南経済開発区、生産基地:浙江省嵊州市経済開発区鼎楊東路1号、電話:0575-83177111、ウェブサイト:WWW.SIEMIVES.COM」と表示された、被疑侵害製品を差し押さえ、封印した。報道では、新昌県西門子公司が生産するレンジフード製品を「SIEMENS」ブランドの製品と誤認した消費者がいると伝えられた。
シーメンス社は紹興市中級法院に、新昌県西門子公司、邦代公司、呉炳均(以下、「三原審被告」)に対する商標権利侵害および不正競争行為の停止と、シーメンス社への経済的損失200万元(権利侵害の阻止に要した合理的支出を含む)の共同賠償を命じるよう求めた。
浙江省紹興市中級人民法院は、審理を経て次のように判断した。新昌県西門子公司は、その企業名称の中に「西門子」という文字を使用しているが、これはその生産、販売する商品がシーメンス社の商品である、または被告とシーメンス社との間に、使用許諾、関連企業関係などの特定の関係があるとの関連公衆の誤認を容易に生じさせ、シーメンス社の企業名称権を侵害するものである。新昌県西門子公司、邦代公司が「SIEMIVES」の標識を使用した被疑侵害製品を生産、販売する行為は、シーメンスの商標権を共同で侵害しており、連帯で責任を負うべきである。しかし、シーメンス社は呉炳均と新昌県西門子公司の財産の混同を証明するに足りる証拠を提供していない。故に呉炳均は連帯責任を負うべきではない。賠償額に関しては、シーメンス社の知名度、権利維持のために雇用した弁護士に支払った訴訟代理費用、新昌県西門子公司と邦代公司の成立時間、登録資本、権利侵害製品の差押件数などの要素を総合的に考慮し、事情を斟酌して、新昌県西門子公司、邦代公司に対し、シーメンス社への経済的損失(権利侵害の阻止に要した合理的支出を含む)10万元の賠償、呉炳均に対し、シーメンス社への経済的損失3万元の賠償を命じる。
一審判決が言い渡された後、シーメンス社は判決を不服として、浙江省高級人民法院に原審の三被告に対し共同でシーメンス社に200万元の経済的損失(権利侵害の阻止に要した合理的支出を含む)の支払いを命じるよう求める訴訟を提起した。
浙江省高級人民法院は審理を経て、次のように判断した。
権利侵害責任法の共同侵害に関する規定、または会社法の会社株主の会社法人独立地位の濫用に関する規定のいずれを根拠とした場合でも、呉炳均は新昌県西門子公司、邦代公司と共同で損害賠償の連帯責任を負うべきであると認定することができる。特に本案の価値志向性から言うと、本案は企業株主が会社を権利侵害の道具とし、会社経営の支配によって不当な利益を得ただけでなく、さらに会社が独立した法人人格を持つという制度を利用し、権利侵害責任を逃れようとした典型的な事件である。このような行為は、権利侵害製品の生産メーカー、製造メーカーなどの権利侵害の源において多く発生し、知的財産権の所有者の利益を極めて大きく侵害するもので、公認の商業道徳および信義誠実の原則に背くものでもある。権利侵害の根源に対する取締りを強化し、権利侵害を主な業とする著名表示冒用行為、模倣行為を抑止し、厳格な保護の法律効果を実現するため、当該株主権利侵害主体に連帯責任を負わせ、これにより会社経営の秩序を規範化する方向を示す作用を果たすべきである。
呉炳均と新昌県西門子公司との間には、主観的には、権利侵害として告訴された行為を実施する共同故意があり、客観的には、団結・協力の行為協調性があり、結果的に損害の結果発生を招いた同一性がある。その各自の行為は、共に内在的関係のある共同権利侵害を構成している。さらに両者の人格の混同の程度が大きいことから、呉炳均は新昌県西門子公司、邦代公司と損害賠償の連帯責任を負うべきである。
知的財産権侵害における損害賠償額の確定においては、知的財産権の市場価値の客観性と不確定性の特徴を充分に考慮すべきである。知的財産権の市場価値を目安として、侵害を受けた知的財産権の市場価値を正確に反映するよう尽力しなければならないだけでなく、さらに市場環境下における権利侵害主体および権利侵害行為の各種対応要素に充分に注意しなければならない。このため、賠償金額を決定する際、法律の規定と立法精神に基づき、相応の考慮要素と階層区間を合理的に設定することができる。全方位、多層的に権利情報(権利主体、権利対象の考慮要素を含む)と権利侵害情報(権利侵害主体、権利侵害行為の考慮要素を含む)を評価、分析した上で、権利情報および権利侵害情報の階層を総合的に評判し、互いを修正した後、最終的に規範的に自由裁量権を行使することにより、賠償の限度額を合理的に確定し、これにより法定賠償額認定の正当性、規範性、予期可能性を強化し、統一的で透明な、秩序だって規範化された、公平な競争が行える、活力に満ちた市場環境を強化する。
法定賠償金額の決定は、権利主体、権利対象要素および権利侵害主体、権利侵害行為要素に対する総合的な判断による。
総括すると、二審法院では、次のように判決を改めた。新昌県西門子公司、邦代公司、呉炳均は判決書を送達した日から10日以内にシーメンス社に経済的損失として人民元100万元とシーメンス社が権利侵害の阻止に要した合理的支出人民元7万元の合計人民元107万元の賠償を命じる。
ドイツのシーメンス社の企業名の知名度は高く、その商標「SIEMENS」、「西門子」はかつて「馳名商標」に認定されている。新昌県西門子公司、邦代公司、呉炳均などが「西門子」、「SIEMIVES」標識、「新昌県西門子公司」企業名称、ドメイン名などを許可なく使用した行為は、商標権利侵害および不正競争に該当する。一審法院は、新昌県西門子公司、邦代公司には共同権利侵害が成立するが、呉炳均には共同権利侵害が成立しないと判断した。次に二審法院は、呉炳均は新昌県西門子公司を道具とし、権利侵害で訴えられた行為を実施し、両者の人員、財務、業務などにおける混同の程度は大きいとして、呉炳均に新昌県西門子公司の権利侵害行為に対して、連帯責任を負うよう命じる判決を出した。
社会の「知的財産権損害の賠償額が低い」という評価に対応するため、浙江省法院は法経済学を考慮し、「司法層分析法」をもとに法定賠償金額を計算するという考えを提示した。相応の考慮すべき要素と階層区間を設定し、権利情報と権利侵害情報を基礎として総合的に評価し、権利情報と権利侵害情報の階層に基づいて、最終的に規範により自由裁量権を行使し、法定賠償額を合理的に決定した。この方法は法定賠償額認定の正当性、規範性、予期可能性を高めることができる。本案は「司法層分析法」の初の司法実践となったとともに、本案では株主が会社を権利侵害責任を逃れるための道具として利用する行為に対して、連帯責任を追究した。
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